「就職に強い大学」とは何か、という問い

2014.5.19  397Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。

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入学案内というファンタジーの世界



珍しく、大学の入試広報に関するセミナーで講演する機会がありました。
キャリア形成・就職支援を担当している大学教職員を前に講演する機会はよくあるのですが、入試広報を担当している方の前で講演するのは初めてでした。
アウェイ感、バリバリで、若干空回りしたまま、講演が終わりました。


個人的にいつも感じていることなのですが...企業の求人広告も掲載媒体によっては怪しいものが多いですが、大学の入学案内なども胡散臭いなあと感じます。
この記事にも書きましたが、

大学の学生募集広告 「抜群の就職率97%!」のカラクリとは(Newsセブン)

大学の実態とずれたファンタジーの世界になっていないか、と。


これ自体も問題ですが、高校生や保護者が知りたいと思った情報がそもそも載っていなかったり、理解しにくい内容になっていたりと、存在しないのと一緒じゃないかと思う瞬間があります。
皆さんも自分の大学の入学案内、広告をチェックしてみてください。何か変だなと思いませんか?



「就職に強い大学」という幻想



私が気になっているのは、これらの入学案内、広告などでもアピールされるポイントであり、ビジネス雑誌などの特集や、大学ガイド本などでも話題になる「就職に強い大学」なるものです。
普段から良く使う言葉ではありますが、ふと立ち止まって考えてみると、何を言っているのかよく分からない言葉です。

「就職に強い」とはいったいどういう意味なのでしょうか?
この言葉は、実は奇妙です。
一般的に就職率が高いということを想像するでしょうが、前半で紹介した、私が最近書いたエントリーで触れたように、就職率という指標は、最終的な就職決定者を、最終的な就職希望者で割ったものなので、途中で進路変更した人が抜けていくので、指標として怪しいわけです。


また、就職率が高いからといって、その後の離職率が高かったとしたらどうでしょう。
この離職率という指標も、どのような退職の仕方かということも含めないと判断が難しいのですが。


目先の数字を稼ぐために、企業に押し込むことをしていたとしたらどうでしょう。
実際、最も就職率の高い学部が、最も離職率が高いなんていうこともあったりするわけです。


また、入学案内、広告でアピールされるのは、キャリア教育科目、就職支援が充実していることなどが「就職に強い」に根拠になったりするわけなのですが、そもそもの基礎学力の向上などが伴わないと、厳しい人には厳しいわけで。


さらに、仮に偏差値や知名度が低い大学から、大手企業に入ったところで、入社してからついていけないことや、出世しにくいなんていうことも企業によってはありうるわけです。
就職実績が良いと評判の新設校出身者は、その後の社会人生活もハッピーなのでしょうかね。
もちろん、新設校に行くからには、その辺の腹は座っているかと思いますが。


逆に、昔、高かったものの、最近落ちた大学、もともとそれほど偏差値が高くない大学でも、伝統がある大学は、社会に出てから「この大学でよかった!」と思うことも。
伝統、人脈などを入試広報でももっと打ち出すべきだなと思いますし、学生もこのあたりにもっと自信を持っていいのではと思うわけですね。


というわけで、「就職に強い大学」というのは、就職率だけで考えてはいけないなと思った次第です。
いやあ、それにしても入学案内って本当に謎ですね。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。