「天職」の耐えられない軽さ、焦らずゆっくりいこう

2012.5.23  2308Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




「3年で天職だと思えないならやめろ」と言うけれど




週末、Twitterのタイムラインを覗いていたら、フジテレビの情報番組「Mr.サンデー」で「3年で会社を辞める若者たち」という内容の特集をやると知り、覗いてみました。
大手企業を早期に辞め、自分の好きな道を歩み始めた若者たちを取り上げたものでした。


まぁ、正直なところ、よくあるパターンの特集で、内容も切り口も何も目新しさを感じませんでしたね。


ただ、ジャーナリストの木村太郎氏が最後のどさくさにまぎれて、とても気になることを言っていました。


「3年で"天職"だと思えないなら会社は辞めてしまった方がいい」


実に複雑な心境になる一言です。
今日はこの言葉を元に、現在の日本におけるキャリア形成について考えてみましょう。




a0001_016189.jpg




「天職」ってなんだろう?




そもそも、「天職」ってなんでしょう?


『大辞泉』によると、このような意味のようです。


----------------------------------------------------------------
1.天から授かった職業。また、その人の天性に最も合った職業。「医を―と心得て励む」
2.天子が国家を統治する職務。
3.遊女の等級の一。大夫の次の位。天神。
----------------------------------------------------------------


私たちが普段、この言葉は1の意味で使っていますね。
天から授かった職業、ですか。
いきなり敷居が高いですね。


やや細かいツッコミかもしれませんが、天性に最も合った職業というのも、逆に個人の可能性を限定しているようにも思います。


「天職」ということについて、TwitterやFacebookでつぶやいたところ、たくさんのご意見を頂きましたが、「3年くらいで天職かどうかは判断できない」という意見が多数でした。


面白かった意見は、名工と言われる著名な方にインタビューの際に「天職ですね」と言ったところ「それしかしたことがないので、分からない」という返事が返ってきたそうです。
面白いですね。
大きな実績を残していて、評価されてきたとしても、天職かどうかは自分の心が決めるということでしょうか。


たしかに、「天職」と思えるようなことをして生き生き働き、活躍している人に聞いてみても「これしかできることがないからやっている」「他にもやりたいことがあるけど、しかたないからやっている」という返事をもらうことがあります。


また、天職となる仕事は、最初の段階から好きかどうか、合うかどうかもわかるわけではありません。
世界的に評価されているミュージシャンも、「なんとなく、モテそうだから始めた」「他の連中がギターだったから、バンドを組むためには自分がベースをするしかなかった」という理由で始めた人も。




ミスマッチはなかなかなくならない






やや特殊な例が続きましたが、普通の大学を出て、普通のサラリーマンになる人はどうでしょうか?


最近は、自己分析や業界・企業研究のやり方も進化しています。
情報源も増えました。
就活生は熱心に調べています。
企業もミスマッチ解消のためにできるだけ職場の現実を伝えようとしています。


でも、ミスマッチはなくなるわけがありません。
入社前に見せてもらえるのは企業のごく一部であり、入社してからは、ある部署である仕事をこなすのです。


何より、就活では「頑張ったこと」や「やりたいこと」が聞かれ、学生もアピールするわけですが、ともに好きでやったこと、好きでやりたいことにすぎません。
入社してからは、「好きじゃないけど、やらなければならないこと」だらけなのです。
就活は「お見合いのようなもの」とよく言われますが、背伸びしてよく見せること、理想だけでつながろうとすることにおいても「お見合い」に似ています。


こういう話をすると、「だから新卒一括採用は悪い」という話になりますし、事前に職種を選べた方がよいなどという意見が出るわけですが、では、そうじゃない方法にしたところで、誰もが必ず天職に出会えるでしょうか?
そういうわけでもないでしょう。


たしかに、職種別採用は学生からも支持されています。
マイナビが発表した『2013年卒 マイナビ学生就職モニター調査3月の活動状況』によると、これは、イメージでは約9割、応募意向でも6割の高い支持でした。


そういえば富士通は文系においても職種別採用を導入し、営業、システムエンジニア(SE)、サプライチェーンマネジメント、財務、知的財産など8つの職種別で採用を行なっています。
採用人数の約2割をこの枠で採用するとのことです。
話題になりましたよね。


ただし、その職種に学生が合っているかどうかは、やってみないとわからないでしょう。
あるいは、事前のプレ職業体験などがないとダメですね。


職種別採用を成功させるためには、手に職をつけるための教育や、職業体験が必要になるわけですが、とはいえ、そんなに早く決めて、合うかどうかわからないまま進むのも不安、不満があるわけですね。
同じ職種でも、業界・企業が変わると違いますし。




天職に気付くには...






突き詰めると、「天職」というものは、やりながら気づくもの、だんだん目覚めるものなのではないでしょうかね。
また、自分だけではわからないものですね。


私自身、キャリアに関する講演をしょっちゅう行い、執筆活動や研究活動も激しくやっているのですが、自分に向いているかどうかで言うと、たまに考えることがあります。
私よりこの分野で話が上手い、文章が上手い人はたくさんいるからです。
でも、続けることでそれなりに進化してきたつもりではあります。
また、ちゃんとお客さんがいて支持して頂き、勇気づけられるわけです。


話が拡散しましたが、たまに立ち止まって考えるクセ、他の人の意見を聞くクセをつけつつ、考えつつ、前に進みましょう。




これは天職かどうか?


悩んでいたらいつまでも出会えません。
3年くらいで出会えるものでもありません。


いったん、天職ということで悩むのはお休みして、まずは今、期待されていることをやってみましょう。


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。