私のベンチャー企業体験記

2011.4.28  1828Views

こんにちは、常見陽平です。


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高まる大企業への不信感




「大企業に行ってもどうなるか分からない時代。これからはベンチャーだ!」
もともと、「これからの時代、日本の大企業は大丈夫なのか?」
という声はここ十数年間で高まり続けていました。


さらに、3.11の大震災、およびそれに伴う原発事故、
さらには東電の対応などから「大企業に行っていいのか?」という声を学生から聞く機会が増えました。


「体質がひどい企業に40年間も捧げると思うと、さすがに考えてしまう」(一橋大学社会学部 4年生)
などの声を聞きます。
日本の就活の構造的な問題である大企業ばかり受けて、
ベンチャー企業を受けないということについての意見もメディアで盛り上がりをみせ、
ベンチャー企業に対する注目度は高まっていました。
実際、ベンチャーってどうなのでしょう?
ベンチャー企業立ち上げ経験のある私の体験談をお話ししましょう。


前提として、ベンチャーは本当にピンキリなので、一つの事例として聞いてください。
見分け方については後日、書きますね。






トヨタとリクルートがバックについていても、ベンチャーはベンチャーだった件




2002年4月1日、トヨタとリクルートグループによる合弁会社、
株式会社オージェイティー・ソリュイーションズが設立されました。


トヨタのモノづくり現場で約40年間活躍してきた管理監督者を顧客企業に送り込み、
改善プロジェクトを結成。
その活動を通じて、管理監督者を育成するというものです。
この企業の設立を伝えるニュースを通勤中の日経で読み、「へー」くらいに思っていたら、
深夜の会議が終わった後に当時の上司とらばーゆ編集長に会議室に呼び戻され、
内示を受けたのを覚えています。


縁もゆかりもない名古屋に行くのは一大決心でしたが、気づけば新幹線のホームに立っていました。
地図を片手に、会社を探したのを覚えています。
そこから2年間の出向期間で様々な喜怒哀楽を経験しました。
このあたりの話は、一晩では足りないくらい話せますので、
今日は手短に、ベンチャー企業に行って気づいたことをお伝えしたいと思います。




■なんせ知名度がない


トヨタ、リクルートという名の通った大企業が立ち上げた会社であろうと、
ベンチャーはベンチャーです。
なんせ知名度がないのです。
電話をかけてもつないでもらえなかったこともしょっちゅうです。




■何から何まで自分でやる


私は広報・マーケティングと、なぜかITを担当していたので、
それこそ著名経済ジャーナリストの財部誠一さんと、
顧客企業の東証一部上場企業社長との取材セッティングなどの仕事をしつつも、
電気屋さんに行ってLANケーブルを買い、床を這いずり回って差すなんてこともやっていました。




■絶対に失敗はゆるされない


これはやっていることがソリューションビジネスだったということもありますが、
悪い評判がたったら終わりなので、受注した案件は常に最高の満足度になるよう努力していました。
本当、評判が命です。




■株主に気を使う


合弁会社なので、社内のメンバーの意向だけでは決まらないことも。
株主をたてなければなりません。
彼らの不利益になるようなことはできないわけです。
だいぶ、自由にやらせてもらいましたが。




■人間関係が非常に大事


私が帰任することはだいぶ大きくなりましたが、立ち上げた頃は20名程度。
人間関係のトラブルがあると、諸々うまくいかないわけです。
そう、一般論ですが従業員数が少ない企業は「この人に嫌われたらやっていけない・・・」なんてことは現実にあるわけですねぇ。




■自分の居場所は自分で確保すること


担当している業務で成果を出せなければ、組織には残れません。
大企業や、少し規模の大きなベンチャーであれば、異動などでなんとかなることもあるのですが。




■「できっこないこと」をやる姿勢


大手で出来ることをやっていては意味がありません。
同じことをやったら規模や価格の勝負になるわけです。
できっこないことをきっとやる姿勢が大事ですねぇ。




■企業も自分も「生命」を意識する


ちょっと油断するだけで大赤字になってしまうことも。
そうすると、株主の圧力があったり、最悪、資本引き上げになってしまうことも。
突然、撤退、売却などということもあるわけです。


常に当事者意識を持たなくてはならないですねぇ。




まだまだありますが、この辺で。トヨタ、リクルートという企業がバックの合弁会社ということで、
特殊事例のように思えるかもしれませんが、株主がいて、様々な人が集まり、
少人数で新しい価値を創り出そうとしている点では一緒だと思います。


そして、今もベンチャーにいるわけですが、共通点は多いといえます。
上記の事例は様々な解釈があることと思います。
これをやりがいがあると考えるか、大変だと考えるか。


どこに行くにしろ、覚悟が必要な時代ですけどね。


私の体験談でした。


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。