早期の内定出しは企業にとって得なのか?

2015.1.26  1537Views

 皆さん、こんにちは。常見陽平です。

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「もう内定が出た!」青田買いにも色々ある


 タテマエでは就活は3月解禁ですが、「もう内定が出た!」みたいな話が話題になっています。こんな話を聞くと何かと焦るわけですが、落ち着きましょう。毎年のことなのですよ、これは。今に始まったわけではなく、長きにわたってこのような就活のフライングは起こっているわけです。いまさら騒いでもしょうがありません。

 就活の時期の問題、なぜ守られないかについては、これまでこのサイトでも書いてきましたし、最新作『「就活」と日本社会―平等幻想を超えて (NHKブックス No.1227) 』でもページを割いて論じましたので、そちらをご覧ください。


 少しだけ補足すると、この明らかにフライング気味の内定にも、上位校の学生を中心にインターンシップ参加者に早期で出すパターン、そもそも採用時期が普通の企業に比べて早いパターン(外資系、ベンチャー企業など)、採用困難なので、フライング気味の時期から卒業前までずっと採用活動をやっているパターンなど、何種類かあります。あくまで、優秀層を早めに囲い込むための施策であり、その他の自由応募層は経団連の「指針」通りにするなど、時期をいくつかに分けているパターンもあります。このあたりも最新作で論じておりますので、ご一読を。


 というわけで、就活時期の繰り下げと言いつつ、ルールは徹底されていないわけで、この辺りも予想どおりなのですが、単に破る、破らないだけの話だけでなく、時期や採用手法が分化しているべきだと私は見ています。業界・企業規模によっても違いますしね。

 思うに、「就活時期繰り下げ」というのは、実は就活の多様化宣言であり、ますます優秀層の囲い込みが熾烈になるという意味で、就活格差拡大宣言だと私は見ています。このあたりも2013年にこの施策が決まったころから論じているわけであり。まったくブレていません。想定の範囲内です。


これは、嬉しいのか?


 今日は、「これは、嬉しいことなのか?」ということについて考えてみたいと思います。学生と、企業にとって、です。

 学生にとっては、内定先の一社が早期に見つかるという意味では嬉しいでしょう。言うまでもありませんが。早めに終わることにより、学生生活はますます充実します。学業にもますますのめりこめます。留学や海外旅行に行くことだって可能です。

 もっとも、あっという間に決まってしまったので、入社後のミスマッチ、ギャップに苦しむというリスクもありますが。何度も受けて落ちるという就活の苦しみを肯定するつもりはありませんが、とはいえ、そのプロセスを通じて、合うか合わないか、何が得意か不得意か、何が好きで何が嫌いかに気づいたりもします。このあたりを解消するために、内定者を対象としたインターンシップを実施する企業もありますね。

 肝心なのは企業にとってどうなのかということです。他者に取られる前に内定出しをするのは、有効のようで、ここで問われるのは「その内定者を囲い込めるのか?」という問題です。後でひっくり返されるリスクもあるわけですよ。そのために、内定誓約書を書かせたり、前述したインターンシップによる囲い込みなどを行ったり、懇親会や接待旅行までするわけですが、日本の判例や慣行では企業が内定取り消しをすると問題になる一方で、内定者の内定辞退は自由度が高いのですね。逃げられるリスクがあるわけですよ。

 内定をとって安心をしている人を、指針を遵守する大企業(例えば、この就活時期繰り下げを提案していた総合商社など)がひっくり返すという構図にならないでしょうか。

 結果を見てみなければわかりませんが、今のところ、今回の就活時期繰下げで、学生間、大学間、企業間の格差がますます可視化されるのではないかと見ています。

 このように、企業の側も早期の内定出しにはリスクをとっているのだということを確認しておきたいです。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。