インターンシップはミスマッチを解消するのか?

2014.7.31  642Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。

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インターンシップって何だろう?



先日、中央大学商学部の渡辺岳夫ゼミにお邪魔しました。
学生の研究プロジェクトがインターンシップについて研究していると言うので、その発表を聞き、私もプレゼンしました。
大学3年生並みから言うと、研究の中身も、プレゼンの仕方も大変に優れていました。
そこで、彼らの発表を聞いていて、ふと素朴な疑問を抱いてしまいました。
「インターンシップって、何だろう?」という疑問です。
そもそも、インターンシップの定義は曖昧です。

1997年9月18日に当時の文部省、通商産業省、労働省が発表した「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」にはこうあります。


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2.インターンシップとは何か

インターンシップとは、一般的には、学生が企業等において実習・研修的な就業体験をする制度のことであるが、インターンシップが活発に行われているアメリカにおいては、大学のイニシアチブの有無、実施期間、実施形態等によってインターンシップと称するかどうかを区別する場合もあるとされている。
一方、我が国においては、インターンシップについて、関係者間で共通した認識・定義が確立しているわけではなく、「経済構造の変革と創造のための行動計画」及び「教育改革プログラム」においては、インターンシップを「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」として幅広くとらえることとしている。
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今から17年も前の定義ですが、この文章の中にも「我が国においては、インターンシップについて、関係者間で共通した認識・定義が確立しているわけではなく」とあります。
この定義はいまだに、確立されていないように思います。
というのも、就職情報会社のインターンシップコーナーを覗いただけでも、インターンシップは実施時期、受入期間、内容なども実に多様です。
それこそ、1DAYインターンシップに代表されるように、1日で(実質、半日のものも)実施されるセミナー、ワーク形式のものも存在します。
ただ、それが悪いかというとそうも言えません。
学生も手軽に参加できるものを望んでいますし、その短時間でも最大の効果があがるように企業も工夫しているわけです。

そもそもインターンシップの定義がいまだに曖昧であり、ますます多様化していることをここでは確認しておきたいです。


インターンシップでミスマッチ解消は本当か?



一般論としてインターンシップの意義として「ミスマッチ解消」につながると言われています。
実際に職場、仕事を中から覗くということにより、ミスマッチを解消できるという考え方であり、そういうものだと疑いもなく認識されていると思います。

ただ、これは本当でしょうか。
先ほどのインターンシップの多様化が進んでいるという話とあわせると、これもイエスとは言い切れないと思います。

例えば、こてこての営業会社でビジネスコンテスト、ロジカルシンキング講座のような、業務とかけ離れたプログラムが実施されています。
面白いプログラムを提供すれば、優秀な学生が集まるだろうというわけです。
プログラムと業務があまりにもかけ離れていると、それは学生を騙す行為にほかなりません。
そもそも、今のやり方では、インターンシップ先の企業に就職するかどうかはわかりませんし、しかも、配属先が約束されているわけでもないわけです。
これはミスマッチ解消につながるのでしょうか?

とはいえ、ではインターンシップがミスマッチ解消に役立たないかというと、そうでもありません。
そもそも、大学と企業の違いとは何なのか、その企業の風土はどうなのかくらいはわかりますし、インターンシップで任された「仕事(...実際、仕事を任されないこともあるわけですが)」が自分に合ってそうかどうか、自分に足りないものはどうかくらいは分かります。


前出の、「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」には、インターンシップの意義について、次のように記されています(長いので、項目を抜粋しています)。


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3.インターンシップの意義

インターンシップは、大学等の教育サイド、これを体験する学生、学生を受け入れる企業等のサイドそれぞれにとって、様々な意義を有するものであり、それぞれの側において積極的に対応していくことが望まれる。

1) 大学等の教育サイド及び学生にとっての意義
・教育内容・方法の改善・充実
・高い職業意識の育成
・自主性・独創性のある人材の育成

2) 企業等における意義
・実践的な人材の育成
・大学等の教育への産業界等のニーズの反映
・企業等に対する理解の促進

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なんせ、17年前の資料ではありますが、現状とは大きくズレていますね。
ただ、大学、学生にとっての意義の「高い職業意識の育成」「自主性・独創性のある人材の育成」、企業における「企業等に対する理解の促進」くらいは達成できている方かなと考えた次第です。
物事について「本当かな?」という視点を持つことは、ビジネスパーソンとして重要であることは言うまでもありません。
インターンシップについて語られる一般論自体を疑ってみてください。

一方、物事に何らかの意義を見出すことも、ビジネスパーソンとして大事な力です。
自分だったら、そのインターンシップをどう活かすか。
そんな視点も持ってみましょう。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。