実は高い離職率!?大阪府警の「体育会系」優遇採用は正しいのか?

2012.11. 9  14585Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。






大阪府警の採用改革 離職率が高い問題をどうするか?




平成24年11月9日付けの日経電子版で興味深い記事を発見しました。


大阪府警「求む体育会系」 警官採用制度を大幅改正 (日本経済新聞)


要約してお伝えします。
大阪府警は8日、警察官の採用選考制度を2013年度から大幅に改正すると発表。
志望動機などを書く「エントリーシート」を全国の警察で初めて導入する他、柔剣道の有段者などスポーツ分野で優秀な実績がある受験生には加点して、"体育会系"を重視するとのこと。


背景として、就職難の中、応募者数が増えたものの、厳しい訓練や規律に馴染めず、早期離職する警察官が多いのだとか。


新制度では1次選考で武道の有段者らを加点する他、志望動機や自己PRを書くエントリーシートも内容を点数評価して教養試験の成績に加えます。
教養試験においては世界史や物理、英語といった人文・自然科学分野の出題を中止する他、2次選考の体力検査の比重を高めるのだそうです。


なんでも府警の警察官に合格した人は警察学校在籍中に約1割が辞め、警察官になっても3年以内に離職する率が2割近くなのだとか。
合算すると、普通の企業の平均離職率とあまり変わりませんね。
いや、民間企業の離職率は飲食など一部の業界が釣り上げていることを考えると、広い意味で公務員なのにも関わらず、離職率は高いと言えます。


なるほど、警察官の世界も大変なのですね。


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これは有効な改革なのか?




さて、この改革ですが、果たして有効なのでしょうか?


結論から言うと、目的と手段がずれているように思います。


直接、取材できているわけではないのですが、あくまでこの報道をもとに論じることにします。


まず、体育会=心が強いというのは違います。


これは『採用力のある面接―ダメな面接官は学生を逃がす (生活人新書) 』(辻太一朗著)などでも論じられていますが...。


体育会系にもいろいろな人がいます。
よく体力があること、精神が強いこと、理不尽なことに耐えられること、集団行動に慣れていて上下関係も平気であることを評価しますが...。


これは正しいのでしょうか?


実は、好きなスポーツだから頑張れる人(逆に他の対象には打ち込めない人)などもいるわけです。
精神も実は弱いという人も。
上下関係がしっかりしている分、意外に居心地がよかったりもするわけです。
人間関係も仲良し集団になっているということも。
下手をすると、体育会系に期待している要素がまるでない状態になってしまいます。


エントリーシートの導入は、本人をより深く読み解く上での材料の一つにはなりますが、逆に、タフな体育会系を採りたいのなら、この面倒くさいハードルが裏目に出ることも。
志望動機を聞いたところで、民間企業以上に画一化する可能性もあるわけです。


そもそも離職率が高いのは、組織の構造や仕事の任せ方に問題があることも。
採用だけでは変わりません。


もちろん、エントリーシートや面接の運用次第ですけどね。
私なら、面接の時間をもっと増やし、じっくり聴くようにしますね。
あとは選考だけでなく、説明会などでリアルな姿を伝えるよう工夫をします。


民間企業の就職ネタではありませんが、求める人物像と採用方法のマッチという点で面白い事例だったのでご紹介しました。
民間企業でも多いのですよ。
採りたい人物像と選考方法のズレが。


皆さんにはどうすることもできませんが...。
その企業の選考方法の意図を考えてみると面白いですよ。


よりその企業のことが理解できたりします(逆に呆れたり、がっかりすることもありますが)。


今年もユニーク選考方法がぼちぼち出てきそうな気がしますが、そこに意味はあるのか。
よく考えてみましょう。



執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。