条件や制約こそがアイデアを生み出す

2012.7. 6  938Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




エステーのCMはなぜ面白くて愛されるのか?




エステー株式会社執行役宣伝部長クリエイティブ・ディレクターの鹿毛康司さんの講演を拝聴しました。
私が非常勤講師をしている実践女子大学での講義にゲストスピーカーとして来て頂いたのです。
当日は履修生以外の学生、教職員も参加し、大盛況。


私が鹿毛さんの講演を聞くのはこれが初めてではないですし、ご著書やインタビュー記事なども相当読んでいるのですが...。
不覚にもアラフォー男子の私、教え子たちがいるにも関わらず、涙が溢れてきました。
周りを見ると、教え子たちも泣いていました。胸を打つ講演でした。


ご著書でも描かれていた、ミゲル君のミラクルストーリー、雪印時代のこと、身体が不自由な人が傷つくCMを流してしまい打ち切りを決断した話など、いちいち感動的でした。


どのエピソードもためになるものだったのですが、今日はその中から、「自由を履き違えない 条件や制約こそがアイデアを生み出す」というエピソードをご紹介しましょう。


エステーはユニークなCMを自由に作っている企業だと勘違いされがちですが、実は違います。
非常に限られた予算で、15秒、30秒で商品の特徴や機能を伝えないと行けないのです。大手企業は凄まじい広告宣伝予算を使っています。
1000億円近い予算を使っていわれているトヨタ、数百億円使っていると言われているP&Gや花王、サントリーなどびっくりするぐらい広告・宣伝費をかけている企業はあります。
それこそ、東京電力を始めとする電力会社も、イメージアップのための広告費を投じてきました(マスコミの批判をかわすためという意味もあるとは思いますが)。


それに対してエステーは...。約30億円です。
売上500億円の企業並みから言うと大きいという見方もできますが、それでも広告宣伝費のランキングで言うと、国内でだいたい230位くらいだそうです。


じゃぶじゃぶお金を使えるわけではない、でも、ユーザーに覚えてもらい、愛されるCMを作りたい...。
そう、このような制約が印象に残り、商品の特徴や企業メッセージが伝わるCMづくりにつながっているのですよね。


「鹿毛さんはいいですね、自由にできて」
「エステーさんはいいですね、ああいうCMをつくることができて」


よく、そう言われるとのことなのですが、違います。
制約、条件と戦っているからこそ、あの発想は生まれるのです。




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条件、制約を楽しもう




ノマドブームに代表されるように、最近は何度目かの自由な生き方、働き方ブームがきています。
また、企業の硬直化、閉塞感も伝えられます。


「企業に縛られずに、今やりたいことを、今、自由にやりたい」


ノマド論者たちはそう言います。
気持ちはよく分かります。


では、彼らはそれほど自由に生き、素晴らしいアウトプットをしているのでしょうか?
どれだけ世の中を変えたでしょうか?


...またノマド批判っぽくなってしまいました。すみません。


いや、言いたいのは、皆さん、自由というものがあったとして、それを楽しみつくせていますか?
自由に考えていいよと言われたときに、どこまで自由にできているでしょうか?


自由に発想しろと言われても、意外にできないものです。
そして...。
制約や条件を礼賛するわけではありませんが、それがあるからこそ、新しい視点が生まれます。


私も...、おかげ様で連載をたくさん持たせて頂いていますし、書籍の執筆依頼もたくさんありますが、「もうこれ以上、何を書くのだろう?」と思うこともあります。
締め切りもせまってきます。
一方、ページ数、文字数なども決められていたりします。
書籍は出せたところで、自由に宣伝費を使えるわけではありません。
いや、ぶっちゃけほぼゼロです。
でも、そういう制約があるからこそ、アイデアは生まれるわけですね。


デキない理由は誰でも言えます。
やる方法を考える、そしてやり切る。これがプロです。


精神論にしか聞こえないかもしれませんが、制約・条件を楽しみ、やりたいことだけではなくやらなければならないことで成果を出すのがプロです。
いやーな話に聞こえたかもしれませんが、覚えておいてください。


そうそう、鹿毛さんの本、本当にプロ魂が伝わる本ですよ。ぜひ!


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。