「コミュ力」って本当に大事なの?

2012.5.18  3349Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




コミュ力はたしかに必要なのだけど




お世話になっている同世代の著者の方から、こんな質問を頂きました。


--------------------------------------


おはようございます。
少々うかがいたいのですが、近年の企業の採用時の「コミュニケーションスキル重視」という傾向は果たして本当なんでしょうか(個人的にはあてはまると思うのですが)。
もしその傾向が顕著だとして、いつごろから、なぜこの趨勢になったと思われますか?
よろしければご指南下さい。


--------------------------------------


なるほど!
みんなも気になるテーマだと思うので、記事としてまとめることにしましょう。


結論から言うと


・たしかに大事だが、どちらかというと前提。
・企業を取り巻く環境の変化、仕事の仕方、正社員に求められる力の変化による


というのが私なりの答えです。
 
まず、経団連が毎年発表している「選考時に重視する要素」をご覧ください。
2001年から2011年までの経年の変化が紹介されていますが、コミュニケーション能力は2004年からずっと1位です。
直近のデータでも80.2%になっています。


では、なぜ「コミュニケーション能力」が必要なのでしょう?
期待度が上がっているのでしょう?


やや端折って説明するならば、理由は次のような点となります。


・社内外の人とチームやプロジェクトで仕事をする機会が増え、コミュニケーション能力に関する期待が高まった。
・正社員総合職の仕事が再定義され、非正規雇用社員を含めた様々な社員とコミュニケーションをとる仕事が増えた。
・(営業職などで)課題が高度化し、高度なヒアリング能力が期待されるようになった。
・コミュニケーションの機会とツールの多様化
・(実は...)同質化していた上の世代のコミュニケーション能力が低く、下の世代にそれが責任転嫁されている...


以上が理由だと考えられます。この十数年くらいの流れですね。




a0001_011480.jpg




「コミュ力抜群です」と自分で言う人なんか要らない




ただし、このデータはやや丁寧に見なくてはなりません。
実はこれは25の能力要素から5項目複数回答するという形式になっています。
この選び方でコミュ力は1位だったものの、回答者にとって「最も期待する力だったか?」という点ではわかりません。


採用担当者と話していても、どちらかというとコミュ力は前提です。
実際、このデータでも「主体性」に関する項目が伸びています。
期待されているのはこのような「前に進む力」です。


また、コミュ力というと、どうしても「話が上手いこと」と解釈されがちですが、それも違います。
例えばコミュ力は「発信力」「傾聴力」「会話力」に分解できるのですが、企業によって、職種によって求められるバランスが違います。


「言語コミュニケーション」「非言語コミュニケーション」という分け方もあります。
企業社会ではどちらかというと、後者の方が重視されますね。


この「コミュ力が大事!」という幻想、信仰にはやや注意が必要です。


就活する学生は「私はコミュニケーション能力が高いです」と自分から言ったりします。
その根拠は居酒屋でのアルバイトだったりするわけですが...。


自分からコミュ力があると言う学生のコミュ力って、そこそこなんですね。
いや、平均以下ということも。
これは相手が評価する力ですからね。
そもそも居酒屋バイトでコミュ力って鍛えられますかね?
そんなに積極的にコミュニケーションされる居酒屋はうざいです。
キャバクラやガールズバーじゃないんですから。


先日、有名な外資系企業の幹部に講義のゲストスピーカーで来て頂きましたがその方も「英語だけできる人はいらない」と言っていました。
これと同じで、コミュ力はどちらかというと前提ですよね...。


コミュ力はたしかに大事なものの、背景を理解しておきましょうね。


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。