焦る企業続出、倫理憲章ってどうなの?

2012.3.23  1810Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。


昨日聞いた、ひどい話です。


倫理憲章にサインしている大企業が、学生に内定を出し、すぐに入社を決意するよう促しました。
経団連の倫理憲章では今の時期に内々定を出すのはNGであるはずなのですけどね。


今年は倫理憲章が変わり、大学3年生の12月1日スタートになり、どうするか各社が手探り状態でした。





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「大企業内定なう」倫理憲章ってどうなの?




とはいえ、就職情報会社各社のレポートなどによると、スタート時までは遵守していた企業がほとんどでした。
真面目に採用活動に取り組んでいる企業はバカをみますよね。
学生さんも、「なんだかな」と思うことでしょう。


とはいえ、倫理憲章は穴だらけです。
「Facebookページを早期に立ち上げるのはどうなのか?」「個人情報を取らない合同説明会はOKなのか?」など今年度ももろもろ問題は起こっています。
もともと法的拘束力はないですし、解釈や運用については企業に委ねられている部分も大きいわけです。


言ってみれば、「正々堂々と、戦うことを誓います!」という選手宣誓に賛同した他のチームで、実は暴力沙汰や喫煙騒動があった、みたいなものですよ。
あるいは、真剣勝負だと信じていた大相撲の八百長みたいなものですね。
ちょうと出張先の大阪は大相撲で盛り上がっているのですが、これ以上の不祥事がないことを祈ります。
まぁ、同じ大阪府立体育会館で開かれるプロレスは真剣勝負で最強ですし、5カウント以内の反則は認められるのですけどね。


この手のことは毎年起こっています。


たとえば、


"面接等実質的な選考活動については、卒業・修了学年の4月1日以降に開始する"


とありますが、「面接等実質的な選考活動」は倫理憲章にサインしている企業ではとっくに行われています。
企業の採用情報コーナー、「みんなの就職活動日記」、学生のTwitterアカウント、Facebookなどをみれば明らかです。
リクルーターによる接触、面接などは3月までに終わらせ、4月以降に最終面接をして内々定だしという企業もあります。
これも「倫理憲章を守っている」と解釈されているのが現状です。


もっとも、私は経団連批判、倫理憲章批判をしたいわけではありません。
守れない約束なら、見直しをかけるべきではないかと言いたいのです。
経団連の新卒採用、もっと言うと、若手人材に関する方針はすでに論理破綻しています。
採用の時期をしばる倫理憲章と、グローバル人材育成のポリシーなどの整合性はまったく理解できません。
東大を始めとする大学の秋入学についても賛成の意向を表明しましたが、現状の取り組みとは大きく乖離しています。


現在の経団連は産業界から政治に対する圧力団体としても、産業界の調整役としても機能していないのではないか、旧来の産業や企業を保護する団体になっているのではないかという声がありますが、新卒採用のポリシーだけをみるならば、その傾向は明らかです。


論理がやや飛躍しますが、守れない約束、説明できない約束ならやめてしまうのも手です。
中途半端に良い人ぶられても、学生も大学も救われませんし、企業活動のためにもなりません。




結局、新卒採用の論点は「時期」なのか?




新卒採用の議論は結局、「時期」の議論になりがちなのですよね。
企業にとって採用は人材の争奪戦であり、戦争です。
結局、毎年採用活動は、スケジュール争いになりがちです。


「メガバンクが内定を出したらしい」など情報戦になり、選考解禁日からいかにして採りたい人材を見極め、口説くかという流れになります。
いかに早く囲い込むかの競争になるわけです。


口説き方も強引になりがちです。


「今すぐこの場で、すべての会社を辞退して欲しい」
「全部、辞退をしたら内定を出す」


などの強引なアプローチもあります。
それこそ、「軟禁」に近い状態で拘束されるなどという話も未だにあるわけです。


「就活は恋愛と一緒だ」と言いますが、これってストーカーなみですよ。


理想を言うなら、「説得」ではなく、「納得」してもらって入社した方がいいに決まっています。
また、いくら口説こうと、最終的に学生に決めさせなければ、覚悟がない状態になってしまうわけです。


もっとも、企業の採用担当者としては、気持ちは分かりつつもそうも言っていられないわけですが。
採用担当者としても、「早く内定をだし、決めてもらって、楽にしてあげたい」と考える人はいるわけです。


かわいそうなのは学生です。
早期に内定が出た学生の皆さんは、


「なぜ、私を採ったのか?」
「なぜ、そんなに焦るのか?」
「納得のいく選び方をさせて欲しい」


と言う勇気を持ちたいところです。


特に今年の採用担当者は焦っています。
彼らも不安であり、気持ちは揺れているわけです。
彼らを突き刺す正論を、学生には期待したいと思います。


そして、一度守ると言った倫理憲章を破ってまで内定を出し、早期受諾を迫る企業は疑ってかかって欲しいですね。
まぁ、内定を受諾したふりをして活動を続ける器用な方も毎年いるわけですけどね。


もっとも、「内定を早くだしてくれて、ありがとう!倫理憲章やぶってくれて本当によかった!」という意見なら、これもこれで正論です。
4月以降に選考をされると、むしろ学業を阻害するという声もありますからね。


「就活は恋愛と一緒だ」と言いつつ、ストーカーみたいな一方的な愛の連続、これが就活の現状です。




今後の就活はどうなるか?






就活のこれからについては、大学の秋入学の流れを含め、多様化していくことでしょう。


やたらと「新卒一括採用崩壊」とメディアや論客は騒ぎ立てるわけですが、現実も踏まえた私の推測では、今後は時期もやり方も多様化した、「新卒ハイブリット採用」になっていくことでしょう。
1年生から選考に参加可能なユニクロ、ネスレ日本のような企業、既卒3年以内を新卒とみなす企業など採用対象も多様化します。
一方で、すべての大学が秋入学になるわけではないので(大学自体が分化していくので)、採用時期は分散化していくことでしょう。
通年採用と分散化した大量採用が同居し、入社時期は主に年2回という状態になるとみています。


「正社員」も総合職の分化が加速していき、職種限定型、エリア限定型などがいる一方で、ハイパーグローバル幹部候補など分かれていくことでしょう。
この採用対象に合わせて方法や時期が多様化していくのではないでしょうか。


一方、この状態になったときに、現状の新卒一括採用不要論、就活批判論は実は極めて牧歌的だったことに気づくことでしょう。
何段階かの工夫をしないかぎり、今以上に就職難で苦しむ若者が増えるリスクはあります。


また、「入りやすく出やすい」状態になっており、教職員を食べさせるための組織になっている日本の大学をまともなものにすることも急務でしょう。


移行期で混乱する就活生には心底同情します。
学生には企業の論理に流されない、またきれいごとでもない、ホンネ、正論を期待したいと思います。


徒然なるままにお届けしました。


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。