捏造されるスゴい社長、デキる社員「すごい人の話」は本当にすごいのか?

2011.12.26  1836Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




採用活動に「苦戦する」と答えた企業が66%という現実




毎日のように企業説明会が開催されています。
何度も書いていることですが、学生にとっては「就職難」ですが、企業にとっては「採用難」です。
特に今年は倫理憲章の見直しがあって、混乱しています。
企業側は、採用スケジュールが短期化する中、ちゃんと説明会に学生が集まるのか懸念しているわけです。


やや話は脱線しますが、企業側が採用難を懸念しているデータをご紹介しましょう。
先日、ジョブウェブとレジェンダコーポレーションが発表した「2013年新卒採用担当者意識調査」によると、企業の活動見通しについて「苦戦」と答える企業が66%となり、昨年比で21ポイント増加していることが明らかになりました。
企業側は「学生の意識・準備不足」を懸念しているようですね。


まぁ、何でも学生に責任転嫁するのもどうかと思うのですが、好き嫌い、善悪を別にして言うならば、企業も余裕がないわけです。




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その社長、社員は本当に「すごい人」なのか?




そんな中でも、今日も企業説明会は進んでいきます。
その説明会なのですけど、こんな感想を抱くことってありません?


「どの企業もよく見えてしまって、選べない・・・」


そりゃそうです。
企業の説明会は「よく見える」ようにできているわけですから。
ある都内の私立大学職員はこう言いました。
「常見さん,企業説明会って、結局、"粉飾決算発表会"ですよね」
粉飾決算は実にタイムリーなキーワードですが、でも言い得て妙ですよねぇ。
そりゃそうですよ。企業の魅力を伝えるための説明会なのですから。
リクナビ、マイナビに代表される就職ナビ、自社のホームページの求人情報にしてもそうです。
基本的に、いい話しか載りません。


「仕事は忙しくて遅くなることもある」
「最初は、誰もが1年は営業を経験する」
「すべての新入社員が工場研修、販売店研修を経験する」


など、学生にとってキツイ話が載っていることもありますが、それも期待値を調整させるためであったりして、なんらかの意図があるわけですね。
特に気を付けたいのは、社長、デキる社員の話ですね。
就活に限らず、ビジネス誌などに掲載されている話も含め、まぁ、盛りまくりですよ。
拙著『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)にも書いたのですが...、
たいてい演出されているわけですよ(この本は若手社会人向けに書かれた本なのですが、今の時期に読んでおいた方がいいですよ。社会の現実がわかります)。


企業説明会にしろ、就職ナビの原稿にしろ、ビジネス誌の記事にしろ...。
まず、「デキる社員」が紹介されていくプロセスを知っておきたいですね。
まず、社員はできるだけ見栄えがよい人を選ぶわけです。
あるいは、「こんな人もいるよ」という多様性を示す事例になりそうな人を選ぶわけです。
叩くとホコリが出てくるタイプの社員は選びません。


ヒット商品の開発などの場合、プロジェクトチームを組んで取り組むのですが、その中でも一番見栄えがよさそうな人を選びます。
そのため、「この商品は私が作りました」という仕掛け人たちが、たしかにその商品に関わっていたものの、実は脇役だったというケースもあるわけです。


私がショックを受けた事例をご紹介しましょう。
ある大手菓子メーカーの事例です。その企業は地域限定商品を仕掛け、大ヒットさせていました。
2000年頃にビジネス誌で紹介されていた記事を読んで、担当者は20代半ばの女性ということで、「同世代にスゴイ人がいる。私も頑張らなくては」と奮起したものです。
それから5年後のことです。
ある会合で、その大手菓子メーカー出身の方とお会いしました。
「そういえば、数年前、こんな記事を読んですごい社員がいるなぁと思ったのですよ」
彼の返事はこうでした。
「あぁ、あれね。実は私が手がけたんだ。メディアに出すときに話題になると思って、彼女が仕掛けたことにしたんだよね」
実にあっけらかんとそう言われました。
もちろん、彼女が関わった商品であることは間違いないのですが。


他にも国民的大ヒットになった商品なども真の開発者が表に出ず、プロモーション担当などを前面に出している例などは枚挙に暇がないわけですよ。


社長はもちろんそうです。
彼らは自分プロデュース、セルフブランディングの名人です。
よく見えるよう工夫しているわけですよ。


この辺は新卒採用の課題とも言える部分で、学生は社会とも企業とも社会人とも接点がないため、会った人をすべて「すごい」と思ってしまうわけですね。
まぁ、学生に限らず、「すごい社長」「デキる社員」に対する幻想、妄想を早くなんとかした方がいいですよ。
まぁ、何をもってすごい、デキるというかですが。


「○○よりすごい奴はいっぱいいる」なんて話があるわけですが、「あれ、そんなこと、今まで気づかなかったの?」と言いたいわけですよ。えぇ。




あえて考えたい、普通の社員の仕事ぶり




皆さんの何かを成し遂げたい、成長したいという衝動は決して否定しません。
むしろ応援したいです。
でも、その前に現実をみた方がいいですね。


企業説明会も、就職ナビや自社ホームページの採用情報も捏造されまくりなわけなので、「本当なのか?」と疑問を持つ姿勢と、「普通の社員はどうなのか?」という視点を持ちたいですね。


まぁ、もっとも、そうやって評論家モードでいてもしょうがないわけで、結局は働く覚悟が必要なわけですけど。
結局、就活をするということは、少なくとも最初は「従業員」になるわけなのですね。
この視点も忘れたくないところです。


というわけで、企業説明会、就職ナビ、自社ホームページの採用情報にすごい社長、デキる社員が出てきても、いちいちびっくりしないことにしましょう。


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。