敢えて1日後に語る12月1日のこと 就活解禁に焦らず悠々として急ごう

2011.12. 2  9274Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




12月1日を敢えて「就活解禁ですね」ではなく「師走ですね」と言ってみる




12月がやってきました。師走です。まだ1ヶ月ありますが...。
今年は、東日本大震災、それに伴う福島第一原発事故など大きな事件が多数ありましたね。
世界の政治・経済においても大きな事件がたくさんありました。
あと1ヶ月、日々を一生懸命生きましょう。


いよいよ経団連の倫理憲章による、いわゆる「就活解禁日」がやってきました。
昨日のメディアはどこも就活ネタでしたね。


大手就職情報会社の就職ナビもオープンしました。
アクセスが集中し、落ちてしまったことも話題になりましたね。


就活サイト「リクナビ」一時停止 アクセス集中で(日本経済新聞)


まぁ、それくらいアクセスが集中することは予想して対策しておいて欲しかったのですが。
ただ、ここまでのアクセスは予想外だったのですかね。
たまたまお邪魔していた大学のキャリアセンターで、
PCコーナーで学生が「つながらないよ...」と困っていた様子を見て、複雑な心境になりました。
いきなりDMが80件弱きて、焦っている学生も多いことでしょう。


そんなリクナビ2013の掲載件数ですが、12月1日時点で掲載数6,227社、エントリー受付数5,949社でした。
昨年は10月1日のオープン時に掲載数5,301社、エントリー受付数5,000社でした。
オープン日が違うので単純比較はできません。営業にかけることのできた日数も多かったですし。
率直な感想から言うと、「思ったより多いな」という印象です。
リクルートさんが営業活動を頑張ったということもあると思いますが、
大企業を中心としつつ、採用意欲が高まっているとも感じます。


一方、採用担当者と打合せをしていると、募集手段としての就職ナビの優先度を下げている声が多数だったので、正直「思ったより多いな」と感じた次第です。
ところで...。
敢えて私がこの記事を、ゆるい師走の挨拶で始め、しかも12月1日に書かなかったのは、ささやかな抵抗です。
別に12月1日が来なくても、就活や、キャリアのことを考える人は考えるし、
ゆっくり始める勇気があってもいいと思っています。


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自分の目で見て、自分の頭で考え、自分の言葉で語るという基本


マスメディアもソーシャルメディアも昨日は就活一色だったわけですが、
ちょっと落ち着いて現実をみる勇気を持ちたいところです。


昨日のメディアの報道を見ていても、「またか」という印象が拭えません。
就活報道はフォーマットが決まっていて「大変そう」「かわいそう」「たくさんの学生が動き焦る」などのパターンになっています。
親御さんから若者まで、誰もが飛びつくネタになっているのですね。実にいい加減だなと感じる瞬間はあります。


これは別に「集合知」などと言われるソーシャルメディアでも変わりません。
昨日のタイムラインには就活頑張れツイートも就活批判ツイートもたくさんでした。
就活頑張れツイートはともかく、就活批判ツイートの中には明らかに事実とかけ離れているものや、誤解・曲解もありました。


まぁ、それでも様々な人が情報を発信するので、
中和、浄化されていくのですが。不平不満の気持ちもわかりますが、カタルシスにはなっても、解決策にはなりません。


ただ、メディアの報道にしろ、ソーシャルメディアでの意見にしろ、
「やむを得ないなぁ」と思うのは、「就活」ということについての現実と捉え方があまりに多様だということでしょう。


さらには、「本当のこと」が見えないということです。


官庁や、就職情報会社が発表する雇用の統計の取り方にしても、
今の雇用の現実と離れていたりしますし。
(例えば、濱口桂一郎先生による、学校基本調査改正に関するエントリーなどをご覧ください。)


外資系、総合商社など数社に応募して内定する就活をする人もいれば、
なんとなく何十社も受けて4年の秋まで決まらないという人もいるわけです。
なんせ、新卒の就活は初めてなので、「こういうもんなんだ」ということに気付くのにも時間はかかります。
これはまさに新卒一括採用が批判される論点の一つなのですが、
中途においても、気づかない人はずっと気づかないわけなのですけど。


当たり前のことですが、就活に限らず、これからの世の中を生きる基本は「自分の目で見て、
自分の頭で考え、自分の言葉で語る」ということです。


「本当か?」と思うクセをつけましょう。


まあ、そもそも、日本人は情報を鵜呑みにしやすいのですけどね。
かなり前に実施された調査ですが電通総研の「世界価値観調査2005」によると、
日本ほどメディアの言うことを信頼する人が多数な国民がいないことが明らかになりました。


ソーシャルメディアで情報が溢れ、拡散する時代、「本当か?」と思う視点は大事です。
そして、就活にしろ、その先の仕事にしろ、大事なのは「自分はどう思うか?」を発信することです。
 
電通総研「世界価値観調査2005」.jpg
出所:電通総研「世界価値観調査2005」
* 『組織・制度への信頼』という設問において、「新聞・雑誌」について「非常に信頼する」「やや信頼する」との回答率の合計。
※本項目に関し、イラクは調査対象外




昨日の報道にしても・・・。


◆就職ナビサイトがダウン!
 →みんな、同じことやっているのね。ナビ以外にも求人あるのに。落ちたということは、逆にセミナー予約やプレエントリーを焦ることもないかも。ゆっくりいこう。
◆合説に人がいっぱい!
 →じゃあ、快適に企業と接点を持つにはどうすればいいかな?
◆就活けしからん、就活塾の講師は200社、300社を受けろと指導している
 →本当かな?これはプレエントリーなのかな?就職情報会社のデータでも100社以上がボリュームゾーンなんてことはないのだけど・・・。頑張っていた先輩でもせいぜい80社だったかなぁ。


など、ひいた視点を持ちたいところです。




歴史の生き証人になる誇りと責任を




ところで、今年の就活は12月スタートとなりました。
正直なところ、企業からも大学からも賛否両論あるのが実態です。


この件についての企業向けの調査データはマスコミ各社や就職情報会社から出ていますが、
調査主体によって結果はややばらつきがあります。


また、仮に12月スタートに賛成の表明をしたとしても、では自社の採用をどうするかという点については悩んでいるわけです。
どの企業も採用スケジュールと母集団形成をどうするかに悩んでいます。


また、企業や就職情報会社と情報交換をしても、
「今年の学生はまだ働くことに目覚めていないのではないか?」という懸念を抱いています。


ある大学でのOB・OGとの交流会では、学生から福利厚生に関する質問が連発され、OGが呆れてしまったとか。
現実がよく分からないまま、就職戦線に放り出されるという状態が既に見えています。
いや、もともと新卒一括採用とはそういう課題があるものですが。


就活見直し論は経済団体や大学関係者、論客などからも出ていますが、学生不在であってはいけないでしょう。
一部学生からも改革案や、少なくとも意見は出ていますが、とはいえ、皆が納得するものがまとまりきらないのが現実です。


個人的な意見では、改善策、改革案はどんどん提案するべきですが、
全体で規制するという動きは、やろうとしても機能しないことでしょう。


これは歴史が証明していますし、現状の動きをみても明らかです。
新卒一括採用か否かという議論ではなく、自由化・多様化と、一括採用型というのが併存、ハイブリッド化していくことでしょう。
企業の人材戦略×採用対象ということで使い分けていくことになるでしょう。
学生側も、どのやり方でいくか、選ぶことになるでしょうし、既にそう動き始めています。
その流れを加速するのは、グローバル化、ソーシャルメディアの普及、さらには大学の機能分化により加速していくのではないでしょうか。


問題は、ずっと言い続けていることですが、普通の学生をどうするかということ、また大学の役割をどうするかということです。


昨日、ある著者と、カリスマ編集者2名と議論していたことなのですが、新卒一括採用廃止論は、必ずしも若者を救わないということに、みんな気をつけるべきです。
いや、どの方式をとろうと、普通の学生は少なくともワンクッション、彼らを救う施策がないと助からないのではないか、と。
そして、時代を先取りしたカタチのセーフティーネット、職業訓練こそ議論するべきでしょう。


いずれにせよ、2013年度の就活がどうだったのか、皆さんはぜひ感じたこと、改善策を発信して頂きたいのです。


もっとも、学生側の改善策は、単なる感情論にもなりがちです。
そこはオトナたち、つまり人事担当者や大学教職員、経営者や論客なども、
その想いをどうカタチにするのか、協力するべきでしょう。


気を付けないといけないのは、事実は丁寧に発信しないとすぐ歪められるということ、
そしてメディアにでる事実というのはわかりやすい氷山の一角にすぎないということです。


例えば、ここ数年の報道では就職協定があった時代を美化する意見がありますが、本当でしょうか。
少なくとも私の頃はとっくに破られていて、大学4年生の夏学期は就活一色でしたし、学業もばっちり阻害していましたよ。
たしかに、いまほど長期ではなかったですけど、短期にバタバタと決めることに違和感をもっていたことも事実です。


まぁ、自分の代の就活でせいいっぱいだと思いますが、次の時代をどうするかという視点も必要です。
上の代に比べて自分たちはカワイソウだと指摘するのは、世代間格差を論じる上ではあまりに残念です。
次の代をどうするかまで考えたいところです。




悠々として急げ




最後に、皆さんに言いたいことは...。
ゆっくりいきましょうということです。


いや、本当はゆっくりもしていられません。
もうすでにたくさんのセミナー案内が届いていることでしょう。
データをみても、選考が本格化するのは4月です。


でも、ここ数日の学生さんたちの動きをみていると、テンパッてしまっていて、意味のない心配をしたり、
心配しなくてもいいこと、やらなくてもいいことに振り舞われているように感じます。
その気持ちもわかりますが。
たとえば、11月30日にはたくさんの学生から、
「0時00分からセミナー予約が始まるのですか?PCの前にいなくてはダメですか?」と聞かれました。


たしかに一部のサイトはこれくらいの時間からオープンしましたが、リクナビについては、オープンは8時です。
そのリクナビがダウンしましたが、その時間はみんな何もできないわけで。そこで疑心暗鬼になってもしょうがありません。
まぁ、期間は短いようですが、その短期間でどうするかを考えるのも、
その流れに乗らずに夏に採用をする企業を受けてみるのも個人の裁量ではあります
(とはいえ、採用数のボリュームは春に集中しているようなのですが)。


また、場数を踏まないと学べないこともあります。
ただ、闇雲に場数をこなすと負の大量生産になってしまうことも。考えながら場数を踏むのが大事ですね。


「悠々として急げ」という開高健さんの言葉を思い出しました。テンパらずに、考えながら走りましょう。


というわけで長文になりましたが、皆さん、応援しています。
いや、いつも応援しています。就活の栞と、私はずっとそうだったじゃないですか。
なので、わざわざ12月1日にそう言うのはやめました。


いつもと変わらず応援したいと思います。ポジティブにいきましょう


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。