新卒一括採用廃止の先に希望はあるのか?

2011.11.21  5968Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。




ユニクロ、GREEの取り組みで感じた多様化する新卒採用




ここ数日、新卒採用関連の話題記事がいくつかありました。
まず、ユニクロ(ファーストリテイリング)の取り組みですね。
大学1年生から採用活動を行うというものです。


ユニクロ、新卒一括採用を見直しへ 大学1年で採用も(asahi.com)


厳密には、店舗で働く人材を1年生から育てつつ採用するという仕組みのようですが。


また、ネット上で話題になったのは、GREEの採用活動です。


グリー13年度新卒採用で年収1500万円(ゆかしメディア)


新卒でも1500万円もらえる可能性があるという取り組みが話題になりました。


すでに、DeNAなどでも新卒で1000万円もらえる制度が始まっておりましたが、ハイパー人材にはいくらでも払うという動きが顕在化していますね。


いずれの取り組みも、ネット上の意見を見ても賛否両論あります。
特にユニクロの取り組みについては「大学を何だと思っているんだ」「高校生でもいいじゃないのか?」などの意見が飛び交っていました。


私としては、予測していたことが起こってしまったというのが率直な感想です。


新卒採用は自由化、多様化していく、そして求める人材の高度化は止まらない、さらには企業が学生を育てて採る仕組みが立ち上がっていくと予想していましたが、それが顕著になったカタチですね。


採用活動は企業戦略そのものです。


グローバル化と言われる今、ローカルルールをどこまで主張するかは議論のあるところでしょう。
さらに、ユニクロの取り組みについては、「学業を阻害するな」と言ったところで、企業がいかに日本の大学に期待していないかが顕在化したものとも言えるでしょう。




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日経の社説への違和感 原因はそこなのか?






そんな中、注目されるのが、本日の日経の社説です。


「新卒一括」が招いた就職難(日本経済新聞)




所謂、新卒一括採用批判ですね。気持ちはわかります。


ただ、そもそも「新卒一括」が招いた就職難なのでしょうか?


ここで論じられているような、通年採用や、既卒者にチャンスを与える仕組みは、私はどちらかというと賛成で、自由化、多様化していくといいと思ってはいますが、それは必ずしも学生を救わないことに気づいた方がいいです。


そもそも、2012年度の就職難については、実は求人数は回復しており、「景気が悪いから就職できない」という論理が通じないものになっています。


皆さん、大学の就職課に行ってみてください。求人はどんどんきています。


よく「震災の影響で...」という論理がありますが、たしかに東北エリアを中心に、震災の影響で企業が倒産し、求人が減ったエリアなどはありますし、中堅・中小企業の求人がどこまで回復するかには注目が集まるわけですが、企業の新卒採用にかける意欲はあります。


むしろ、震災の影響という意味では、時期の遅延化・分散化による部分が大きいでしょう。
これにより、大手と中堅・中小が混ざったスケジュールになる、と。
決まらない学生ほど、様々な業界を少しずつ受け、気づけばどこにも決まらない...。


自分が上手くいかないことに気づかない状態になってしまいます。


そして、これは結果論としてですが、通年採用に近い状態が実は今年は起こってしまったわけです。
採用時期を多様化する、後ろ倒しにしたからといって学生は上手く就活できないのではないかという疑問が湧いてきます。
「新卒一括採用は時代遅れ」という言説はよく見かけますが、むしろ弱者救済の仕組みになっている部分にも気づくべきです。




止まらない新卒採用の自由化・多様化




ただ、今後、新卒採用の自由化・多様化の波は止まらないでしょう。


逆に前倒しの方向が復活しつつ、既卒者の就活も認められるようになるでしょう。
ソーシャルメディアも登場し、採用の時期という概念が意味がなくなっていきます。
経団連や一部の業界団体は倫理憲章的なものにこだわるのでしょうけど、これも何年続くことやら。


おそらく、いくつかのスタンダードが共存する流れになっていくでしょう。
いや、すでにそうなりつつあります。


問題は、単なる感情的な就活批判、新卒一括採用批判は必ずしも「普通の学生」を救わないということです。
もちろん、今の学生がダメなのかというと、その答えは単純ではありません。
学生のレベル感は多様化し、振れ幅が大きくなっているのではないか、と。
何より、社会が求めるレベルが高度化していることに私は注目しています。


就活を多様化、自由化するにしろ、ワンクッションの一工夫がなければ皆が納得する企業選びができる、就職して働くことができるようになるわけではありません。


そして、大学の存在意義は問われ続けるでしょう。


やや暴論ですが、大学を全てにおいてスパルタ化する(つまり、入試も卒業も厳しくする、また教授に対する評価も厳しくする)というのは乱暴なようで全てを解決する第一歩になるようにも思います。
また、正社員総合職という雇用形態の見直し、多様化、安心非正規雇用の実現、海外で学ぶ、働く人のサポートなども必要かと。
これは暴論なので聞き流してください(でも、そのうち体系化して発表します)。


皆さんはこれらの報道をどう思いましたか?
前回の商社の採用時期に関する問題提起同様、これも学生不在になってはいけないと思います。
この3つの報道に関する皆さんのご意見をお聞かせください。


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。