リクナビ2015『地獄のミサワ』CMで考えた、「便利な就活」のジレンマ

2013.11.15  1906Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。お久しぶりです。
これから、この連載は隔週のペースで書きますね。今後ともよろしくおねがいします。

さて、今日のテーマです。

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リクナビ、機能強化の謎



昨日、Twitterでまわってきたのですが、リクナビのCMが話題のようです。
CMキャラクターは『地獄のミサワ』です。そして、訴求しているのはリクナビの新機能、『OpenES』と『就活マネージャー』です。
前者はいわゆる、共通化したエントリーシート、後者は総合的なスケジュール管理ツールです。
リリース文はこちらです。


前者については、この記事で意見を書きましたので、ご覧ください。



就活エントリーシートを共通化しても学生は救われないと識者(NEWSポストセブン)



要するに、機能強化と学生の負荷軽減はいいことなんでしょうけど、学生が何社も受けて、落ちて、疲れるという構造はちっとも解決されませんということです。
まあ、これはリクナビさんのせいではないかもしれませんが、応募数の肥大化による、学歴差別対応など、不透明なことがますます増えることも懸念されます。
要するに、便利だけど大変なリクナビ型就活の構造はまったく変わらないわけです。


どうでもいいですが、このリリース文にある、「エントリーシート作成は平均1530分!」というのは実に巧妙な煽りです。
先ほどのNEWSポストセブンの記事で触れましたが、リクルートキャリアの調べによると学生のエントリーシート平均提出数は22社。
データを取った対象が違うので、やや乱暴な試算ではありますが、割り算すると、1社あたり約69.5分です。
1時間ちょいじゃないですか。いや、十分な負担ではあります。
ただ、1530分!と書かれると、随分印象が違いますねえ。


『就活マネージャー』については、学生の囲い込み強化施策だと認識しました。
これにより、完全に学生をリクナビのシステムに取り込むという発想なのでしょう。
リクナビが普及した背景には、企業の採用活動、学生の就職活動にシステムとして入り込んだとことがあげられます。
学生側の活動にさらに入り込もうというわけでしょう。
これは推測ですが、これでより学生の行動パターンを把握できるようになるのではないでしょうか。
企業への提案に活きそうですね。


というわけで、就活の負荷が軽減されるのは良いことですが、リクナビ型就活の問題はちっとも解決されないのではないか、結局、リクルートさんの手のひらの上で踊らされるだけではないかと思った次第です。

 

ところで、なぜに『地獄のミサワ』なのか?


もう一つ気になったのは、率直にこのCM、不愉快です。
面白くないんですよ。自分たちが加担してきた世界に対して、まったく反省していないというか。
そもそも、『地獄のミサワ』は人気があることはわかるのですが、学生に受けるのでしょうか。


一方、ひたすら機能訴求型というのも面白いポイントではあります。
これまで、リクナビがCMを流すときは、「就活を頑張ろう」的な応援メッセージが中心であり、やや偽善的な臭いも感じてしまったわけですが。
まあ、今後、その手のメッセージのCMが控えているのかもしれませんが。


というわけで、いろんな意味で気持ち悪いなと思った次第であります。
学生はこういう大人の事情はわかりません。
ただ、一見すると便利そうなものの上で、自分たちが踊らされているということに気づいてください。


なお、リクナビの功罪については最新作、




「就社志向」の研究 なぜ若者は会社にしがみつくのか (角川oneテーマ21) で1章かけて論じているので、よろしければご覧ください。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。