『AKB商法とは何だったのか』常識と感情を、うまく手放して考える

2013.8.21  930Views

皆さん、こんにちは。常見陽平です。

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思い込みを捨ててみる



今日は、物事の捉え方、考え方に関する話をします。就活においては、業界・企業研究、そもそもの進路の選び方に関係する話です。

私は学生でもあります。
大学院の修士課程の2年に在籍しており、労働社会学を学んでいます。現在は修士論文に追われています。ちょうど、来月の下旬が中間報告となっているのです。仕事との両立でやや遅れ気味だったので、必死に挽回中です。

ありきたりの表現ではありますが、勉強・研究というものは楽しいものです。現在は、聞き取り調査と、そのまとめを行っているところなのですが、新たな発見があるたびに興奮しますね。

社会学を学ぶ上で、大事にしていることがあります。
それは、「常識を上手く手放す」ということです。これは受講していた演習でテキストとして使われた『社会学の方法―その歴史と構造 (叢書・現代社会学) 』(佐藤俊樹 ミネルヴァ書房 2011年)という本で学んだ考え方です。このように説明されています。

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社会学では、いったん常識を手放しておいて、最終的には(別の)常識的な考え方に戻っていく。より正確にいえば、日常的な経験と大きな不一致がおきない範囲に収める。常識から外れるだけでなく、戻っていくという二重の経路をたどる。そこまでふくめて『うまく』なのだ。


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常識にとらわれてしまうのもよくないですし、はずれすぎるのもよくないです。特に雇用・労働に関しては、自戒も込めていいますが、実体験(自分が体験したもの、あるいは見たもの)と、報道されていることに大きくよりがちです。いったん、常識を手放したものの見方というものを意識したいです。

さらに加えるならば、「感情」というものもいったん手放すという考え方があります。物事を解釈、判断する際にはついつい好き嫌い、喜怒哀楽など感情が作用します。これは仕方がないことです。人間ですから。

ただ、これにより判断を誤ったり、物事の本質が見えなくなることがあります。私たちにとって身近な、教育や雇用・労働はその最たるものだと思っています。

これは前述したとおり、業界・企業研究、そもそもの進路の選び方においても重要で、「思い込み」によって、選択を狭めてしまったり、自分に合っている進路を見落とすことがあります。実にもったいないことです。

企業の採用活動においては「ウソ」ではないものの、自社を誇張したり、美化したりすることが行われます。「これが世の中では普通だから」という説明をされることも。この姿勢はこうして伝えられる情報と向き合う際にも有効です。

この「常識を上手く手放す」という姿勢は、仕事をする上でも大事で、これによって顧客にとって価値のある提案がうまれることもあるわけです。企業社会に入る前の学生だからこそ意識したいポイントです。



『AKB商法とは何だったのか』は「常識と感情を、うまく手放して考える」の好事例




ここでおすすめしたい本があります。



さやわかさんが書いた『AKB商法とは何だったのか 』(大洋図書)です。
「常識と感情を、うまく手放して考える」の好事例です。

AKB48はみなさん、もちろんご存知ですよね?言うまでもなく、国民的アイドルグループです。
ここ数年、いつも彼女たちはニュースになっていました。総選挙やじゃんけん大会など、いちいち話題になりました。何度かのスキャンダル報道もありましたけどね。

もっとも、彼女たちのCDなどの売り方は「AKB商法」として賛否両論を呼んできました。CDを買うことにより、総選挙で投票できたり、握手することができたり。さらに、そのCDも微妙なバージョン違いになっていたり・・・。

私もこれはどうしたものかと思いました。音楽というものの本質ではないのではないか、と。でも、売る努力とも言えるのでは、と。

この本では、淡々と事実、データを追い、タイトルどおりに「AKB商法とは何だったのか」を実に丁寧に検証しています。この過程で、感情的にAKB商法を嫌うのは、筋違いなのではないかということに気づきます。

また、いくつかの事実誤認にも気付きます。例えば、AKB48が国民的アイドルグループとして売れるようになったのはつい最近であること、いわゆるAKB商法は最初の段階では行われていなかったことなどです。アイドルグループにおける微妙なバージョン違い商法も実はかなり昔から行われています。音楽の売り方も、単にCDを売るというものから、ライブやグッズ、ファンクラブを含めてマネタイズしていく仕組みにとっくに変わっています。
もちろん、最後はコンテンツビジネスの倫理に関わってくるわけですが。

ただ、この本に関しては、「常識と感情を、うまく手放して考える」ことを見事に行っていて、AKB商法に関して行われた論争がややずれていたことを見事に明らかにしています。

考える練習のお手本として、手にとってみてください。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。