高校生も就職予備校として大学を選んでいる!?

2011.12. 9  1965Views

みなさん、こんにちは。常見陽平です。




大学はどう見られているのか?




面白いデータをいくつか発見しました。


一つは最近の大学や大学生の印象に関するデータです。
博報堂教育コミュニケーション推進室が2010年9月に実施した「大学に対する生活者意識調査」からのデータです。
「最近の大学や大学生の印象(複数回答)」をみてみると、「就職活動への意識が強く、本来の勉強が不足している」という答えが33.0%で2位になっています。
 
入学が難しい大学とやさしい大学の格差、同じ大学でも入試方法の違いで学生の学力に差があるという印象も強いようですね。
 
特に大卒層で同居の子供が大学生、社会人である場合に、その印象が強くなっているようです。
まさに就活が本格化していますが、皆さん大学の就職予備校化への問題意識は高いようですね。


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大学選びでも高校生は就活を重視している件




一方で、高校生は大学をどう選んでいるんでしょうか。
 
リクルートが2011年6月に発表した約1万人に聞いた調査、「進学センサス2011」はなかなか興味深いデータです。


同調査によると、


◆志望校検討時の重視項目[進学者(浪人含む)全体]
・1位「学びたい学部・学科・コースがあること」(75.6%)
・2位「校風や雰囲気が良いこと」(54.2%)
・3位「自宅から通えること」(51.6%)
・4位「就職に有利であること」(47.8%)
・5位「自分の興味や可能性が広げられること」(47.1%)


※前回調査(2009年)と比較しての上位10項目までの順位変動
・「就職に有利であること」が、前回調査(2009年)5位(46.2%)から4位(47.8%)へ
・「資格取得に有利であること」が、同8位(37.2%)から7位(39.2%)へ
と、進路に関する部分が強くなっています。


※男女別
・男女ともに1位:「学びたい学部・学科・コースがあること」(男子68.6%、女子80.6%)
・男子2位:「就職に有利であること」(45.7%)
 女子2位:「校風や雰囲気が良いこと」(62.4%)


「大学は勉強するところ」というのはたしかですが、
進路選びの段階ですでに「就職に有利かどうか」というのは重視されているんですねぇ。
時代を反映したとも言えますが。
 
◆就職に有利だと感じるポイント
・1位「企業への就職率が良いこと」(56.7%)
・2位「就職活動サポート体制がしっかりしていること」(37.6%)
・3位は「大手・有名企業への就職実績が良いこと」(35.8%)


※男女別
・男女とも1位:「企業への就職率がよいこと」(男子57.5%、女子56.2%)
 ・男子2位:「大手・有名企業への就職実績がよいこと」(37.9%)
 ・男子3位「希望する業界への就職が強いこと」(32.0%)
 ・女子2位「就職活動のサポート体制がしっかりしていること」(42.9%)
 ・女子3位「希望する業界への就職が強いこと」(36.8%)


学校選択の時点で、就職率や、そのサポート体制は気にしているというわけですね。


もっとも、これはすべての進学希望者に対する調査であり、
旧帝大・早慶など上位校志望者ですとか、理系に絞ると、おそらく傾向は変わることでしょう。


でも、大学を選ぶ時点で、結構就活を基準に決めているという事実は押さえておきたいですね。
就職予備校化反対論もわかるのですけど、選んでいる時点でも気にしているでしょ、という。


もっとも、ニワトリが先か卵が先かという話ではありますが。




さて、大学に入ってみてどうでしたかね?




ところで、皆さん、大学に入ってみてどうでしたでしょうか?
事前に知った情報と、入った実態のズレを感じたりしませんか?


電車に貼られている大学の募集広告でも、就職実績や支援体制はウリになっているわけですよ。
入ってみて、現実はどうでしたかね?


大学の入試広報も、企業の採用広報同様、「盛りまくり」です。
就職率の表記は就職希望者で就職決定者を割るわけで、進路変更してフリーターになった方を含んでいるわけではないですし。
大学のパンフレットなどに表記される主な就職先も数年の実績をまとめて表記してあるなどはよくある話ですからね。
オープンキャンパスも企業が実施するインターンシップや会社説明会と一緒で、少しでもよく見せようと涙ぐましい努力をしているわけですが、悪く言うならばやはり「盛って」いるわけですよ。
オープンキャンパスの時と同じくらい、今もワクワクドキドキした日々を過ごしてますか?


まぁ、そうじゃない大学、そう感じない個人もあることでしょう。


でも、ギャップを感じた方はある意味、ラッキーです。
就職における企業選びでもこういうズレはあるものですよね。
構造はまったく一緒です。




あえて就活予備校として大学を活用してみるという発想




さて、大学に対する就活予備校化批判は止まらない中、空気を読まず言いますが、
もしあなたが大学に就職支援を期待して入ったとしたら、大学を活用し倒しましょう。


ほぼ学費の中からの支出で、一通りの就活サポートを受けることができるわけですよ。


有料の就職サービスがたくさん立ち上がっています。


90分の面談で1回15,000円という就活家庭教師のビジネス、半年で10万~15万円程度の就活予備校まであります。
これらのビジネスは、時にメディアやネットで槍玉に上がるわけですが、批判の争点がずれているように思います。


そのようなサービスが生まれる背景には、ニーズがあるわけですよ。
大学に入ったからと言って、就職が約束されない時代ですからね。


これらのことを批判する人は、じゃあ、学習塾や、普通の予備校は批判しないのですか?
東大に強い予備校は50万取りやがった、キーとか言わないのですかね?
受験対策にばっかりやる私立の高校は批判しないのですか?
「それは勉強だから」と言うかもしれませんが、受験勉強はそんなに素晴らしいものなんですか?


いや、受験勉強が必要であることは同意します。
反復練習って必要ですし、型を覚えるのも大事です。
でも、本来の学校に行く以外のところで出費があるという点では同等です。


論点は、値段分のサービスを提供しているかどうかじゃないですかね。
この点では、たしかに怪しいものや満足度が高くないものがあることも事実でしょう。
もっとも、中には内定が出なかった場合は返金保証などもあるのですが。


でも、大学の就職支援サービスは、ほぼ学費の範囲内で行われるわけですよ。
結構、充実していますよ。


まぁ、各社の社説でも新卒一括採用批判や大学のあり方に関するオピニオンがいっぱいでしたが、筋違いなものも多数でした。


現実を見ましょう。


自分がなぜ大学に入ったのかも振り返りたいところです。
大学も大学生もいろいろなのに、すべてを就職予備校化と論じるのも乱暴ではないでしょうか。


皆さんはどう思いますか?


執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。