「大卒採用13.7%増」で就活生は救われるのか?就活格差を直視せよ

2011.6.21  4338Views

こんにちは、常見陽平です。


今回は就活で何が起こっているかについて書きますね。
まずは、日経で発表された大手企業の採用増のニュースをもとに、
2012年度採用で起こっていることをレポートしたいと思います。




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 就職難は終わらない「景気が悪いから就職できない」のウソ
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6月20日(月)の日本経済新聞に掲載された「2012年春の採用計画調査」が話題になっています。
新聞には「大卒採用13.7%増」という文字が踊っていました。
2桁増は実に4年ぶりです。
Twitterのタイムラインでもこの記事がよく取り上げられていました。


今も就活を続けている皆さんは、どのように捉えましたでしょうか?


企業の採用意欲が高まっているのは事実ですが、
一方で、私は今後も就活は「決して楽ではない」と確信しました。


現在の就職難の課題は経済的要因と構造的要因に分けて議論しなくてはなりません。
今回の13.7%増というのは、経済的要因を解消する要素ではあります。


ただし、調査対象の企業の顔ぶれを見ると、大手企業、準大手企業レベルが中心です。
たしかに、大手・準大手は新興国マーケットでの需要の高まりなどを反映し、
3月決算も好成績だったところが多数です。


中堅・中小企業の求人環境は未だに不透明です。
業績の回復遅れが気になるところですし、震災の影響による国内マーケットの行方、
節電による生産と消費の低迷が気になるところです。


そもそも、日本の新卒採用は結果論から言うと大手企業に行けるのは毎年4万人~10万人程度、
人気企業ランキング100位以内の企業に入れる人が2万人程度です。
25万人~30万人は中堅・中小企業に行きます。
中堅・中小企業の求人こそが、実は就活難民がどれだけ増えるかの鍵を握っているのです。
 
また、大手企業を中心とした求人の増加も技術系やグローバル人材による増加が大きく、
こららの要件を満たす人材はどれだけいるのかという問題があります。


結局、求める人材ではない場合は、採用人数に達していなくても採用活動は終了します。


例えば、メーカーを中心に理系の採用数が増加傾向ですが、
彼らの求めるレベルに達している理系の学部生、院生はどれだけいるのでしょう?


果たして採りきることはできるのでしょうか?ここもツッコミどころですね。






 就活格差を生み出す、構造的問題を直視せよ
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2009年に『就活格差』(中経出版)を発表した頃からずっと言い続けてきたわけなのですが、
現在の就職難は構造的要因による部分が大きいと考えています。


乱暴に要約するならば「企業にとって欲しい日本人が応募してこない」ことが課題なのです。


外部環境、内部環境の変化により、企業が学生に期待する力は上がり続けています。
学生は自分の身の程をわきまえず、人気企業を中心に応募します。


この両者にとって最適な出会いがない、ミスマッチ、ディスマッチが課題なのです。


特に最近の就職情報会社各社の調査では、
「学生の質が低い(質と言う言い方はしたくないのですが、このように表記されているのでこのまま書きます)」
という声が多数。


企業が求めているレベルが上がっているのに、
学生の質は基本的に低下していること(厳密には多様化していること)、
欲しい学生からの応募がないことが課題です。


「景気が悪いから学生が就職できない」とメディアは書き、学生ももっともらしくそのことを受け売りしますが、
実際はこの構造的要因が大きいです。


そしてこの構造は今に始まったわけではありません。
最近、売り手市場と言われた2006年~2009年卒の採用に関わっていた大手企業の人事(彼らを私は戦友と呼びます)と飲むと、
「常見さん、あの頃から求める人材のレベルって、上がり続けていたよね・・・」という話になります。


たしかに、なんせ求人倍率2.14倍で今よりも求人環境はよかったわけですが、
この頃も内定長者と「無い内定」の就活格差や、
「欲しいレベルの日本人が応募してこない」ことは問題となっていました。






 就活エリート、就活マシンなんて、いらない
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そして、この学生の「レベル」という曖昧な言葉についても触れておきましょう。


企業は決して、就活だけを頑張った学生を欲しいわけではありません。
仕事ができそうな学生が欲しいのです。


大企業を中心に2012年度採用で顕著なのが、就活エリート、就活マシンの排除です。


2012年度採用では、学生生活を就活だけに捧げてきた就活エリート、就活マシン層を排除するために、
選考途中に懇談会を設けて学生の素の姿をみたり、
逆質問や本質直球質問、変化球質問を投げかける選考が流行りました。


また、金融機関など面接回数が増加した企業もあります。
(これは厳選というだけではなく、拘束の意味もあります)


大学関係者に聞いてみると、今年も最終面接で落ちた学生は多数ですが、
その理由が逆質問でしどろもどろになる学生、話をリードできない学生、
考えの甘さが目立ってしまった学生などです。


まぁ、これも対策はできないわけではないですが、自己PRやガクチカ、志望動機などに比べると対策はしづらいわけです。
その場で臨機応変に対応できない学生は排除されていったというわけですね。


また、やや政治的な質問でどうかと思いますが大手化学メーカーなどのように、
「原発についてどう思う?」というような直球質問をした企業もありました。


本人の価値観だけでなく、大局的な視点、ビジネスセンスが問われる問題です。


大手食品メーカーでは、
「47都道府県のうち、あえて1つ、日本から外すとしたら、どこがいい?」という質問がありました。
ちなみに、「沖縄」と答えた学生が多数だったそうですが、
「沖縄を外したら、日本の領海権がだいぶ少なくなるけど、いいの?」
と突っ込むと硬直した学生が多数だったそうです。


話がやや横道にそれましたが、
企業は別に就活だけを頑張った学生は欲しくないということを覚えておいてください。


こう言うと、「やはり、すごい体験をしていないとダメなのか?」という話になりますが、そうではありません。
過去の体験を聞くのは物事への取り組むスタンスなどをみるためです。
もちろん、成功体験について聞くのは、何か自分の原点となる体験があるかどうか、
やりきったのりこえた体験があるかという意味でも聞くわけですが。




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 中堅・中小企業への入社は楽勝ではない
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さて、「学生は人気企業、大手企業しか受けない」と言うと、
「最近は中堅・中小企業志望の学生も増えている」という方もいらっしゃることでしょう。


おっしゃるとおり、リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査においても、
毎日コミュニケーションズの「2012年卒マイコミ学生就職意識調査」においても、
中堅・中小企業志望者は増えていることはデータに現れています。


マイコミさんの調査に関しては「中堅・中小企業に目が向くようになったか」という聞き方をしているで、
やや誘導尋問的ではあるのですが。


質問したいのですが、
-あなたの周りの中堅・中小企業志望の学生が志望する企業はどこですか?
-彼らはどこに行きたいと言っていますか?


彼らはたいてい「優れた中堅・中小企業に行きたい」「大手でB2Bの名企業に行きたい」
などと棒読みに近いレベルで言いますが、
「それって、どこ?」と言うと、後者はともかく、前者ではほぼ硬直、
知っていたとしても、そこそこ有名で採用に力をいれているベンチャー企業中心なのではないでしょうか。
学生を責めるつもりはありませんが。


彼らは「中堅・中小企業に行きたい」と言わされているような状態になっています。


キャリアセンター職員の証言によると、たしかに希望者は増えているものの、
心から行きたいわけではないとのこと。
そして、これらの企業を探せるメディアがないことも課題です。


最近では、「すぐれた中堅・中小企業」を紹介する特集もありますが、
あくまで業績が優れているのであって、働いて気持ち良い企業だとは限りません。
個人的には、大学が積極的に中堅・中小企業とのリアルな出会いの場をつくり、
肌合わせをすることが大切だと考えています。


実際、地方国立大学を中心に、積極的に地場の中堅・中小企業に学内企業説明会にきてもらい、
ゆっくりと肌合わせしてマッチングしていく取り組みが行われています。


また、中堅・中小企業に入社するのは楽ではないことも覚えておきましょう。
たしかに、リクルートの求人倍率調査などでは社員数が少ない企業ほど求人状況はよく見えますが、
これは企業を束にした考え方なんですね。


常見産業という企業があったとしたら、そこの求人は「若干名」であり、
そこに数十人応募するという状態になっています。
そして、誰でもいいというわけではありません。
むしろ人数が少なく、育てられる体制が整っていない場合は、より採用のバーが上がることもあります。


中堅・中小企業が採用に困っていることは間違いないですが、
誰でも楽勝に入ることができるわけではないのです。


毎年、就活で議論されるのは大企業か中堅・中小企業かという二元論ですが、
そろそろ別の視点で考えた方がいいでしょう。


ずばり、21世紀を生き抜けるかどうか。グローバル展開と、新規ビジネスの創造が鍵です。


日本が直面する、為替と人口動態の問題、さらには原発事故対策とエネルギー問題、
これらを視野にいれた企業活動が期待されます。


一方、すべてがグローバル企業になる必要はなく、縮小が懸念される国内マーケットにおいても、
圧倒的なシェアをとるという勝ち方もあるかと思っています。






 「まだ総合商社が残っている」と言う学生がいたけれど
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ところで、2012年度採用においては、震災の影響により採用の時期が遅延化・分散化しました。
これについては被災した学生もいますし、
企業も採用どころではなかったのでやむを得ないことだったと思います。
これにより学生も企業も混乱してしまったことは間違いありません。


学生の側では、本命企業が始まる6月まで、モチベーションをいかに維持するかが課題となりました。


一方、前出の毎日コミュニケーションズのデータなどをみると、
学生の行動量は昨年よりも落ち着いている傾向が、震災前から見られました。


弊社の学生モニターなどと面談していても、
昨年の同時期に比べると考えの甘さを感じることは多々ありました。


キャリアセンター職員の声によると
「就活が上手くいっていないことに気づいていない学生が、よく見られた」とのこと。


明らかに考えが甘く、対策もしておらず、マナーもいまいちな学生が
「まだ、総合商社が残っている」などと言い出すわけですが、よっぽどの大物では無い限り、厳しいでしょう。
皆さん、受験の時に「まだ東大が残っている」と言いましたかね?
やはりよっぽどの天才でないと厳しかったですよね。
 
来年からはまさに総合商社が採用時期を夏にずらします。


採用時期については、企業の戦略ですので、そこは企業の意志でしょう。
ただ、別に夏にしたところで、学生は劇的に勉強するわけではありませんし、
最近商社は理系での志望者も目立ちますが、理系の研究は阻害します。


そして、「まだ商社がある」というような「就活が上手くいっていないことに気づかない勘違い学生」
「高望み学生」が増えるのではないかと危惧しております。


企業側も内定時期が分散するので、内定拘束を厳しくする動きはありました。
それこそ、企業によっては接待旅行まで復活していましたし。
やはり他社に人材を取られることを恐れているわけです。


実際、採用人数分内定を出したものの、
辞退率をみて採用活動を再開する準備をしている企業は多数ですね。
 
まさに、学生も企業も、混乱した状況の中で、冷静さと情熱を両方もった、
戦略と意思のある行動が求められるといえます。






 さいごに
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長々と書いてきましたが、いかがでしょうか。やや言いっぱなしになってしまいました。


次回からは2013年度採用の展望や、就活改革論のウソ、
気になる学生はどうすればいいのかということについて書きますね。
お楽しみに。

執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平

評論家
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
リクルート、玩具メーカー、クオリティ・オブ・ライフ(現在:フェロー)を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。
2015年4月 千葉商科大学に新設された国際教養学部の専任講師に就任。
著書多数。